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2006年11月
星降る夜は…狼女

 1986年3月下旬、私はジュネーブの旧市街、サン・ピエール寺院近くのホテルに滞在していました。まだ時差ボケが抜けやらぬ体で午前3時に目を覚まし、所在無くベランダに出てレマン湖の方角に目をやると、音もなくボーっと輝く不思議なものを見つけました。ハレー彗星です。町は街灯に照らされほんのりとオレンジ色に染まり、時折時刻を告げるカリヨンだけが冬の名残りの冷たい空気を震わしていました。私は、この神秘的な光景に寒さも忘れて見入っていました。
 
 わが愚弟が念願の反射望遠鏡を手に入れたのは、中学生の頃。早速、家族で天体観測会を催しましたが、この日はまれに見る好条件が重なったようで月はクレーターの影までくっきりと見え、私たちは土星の輪、木星、火星と次から次へと手当たり次第に覘きました。この体験が、後に私を『狼女』に変身させるきっかけとなりました。

 2001年11月某日某所、深夜インターネットでの中継映像を眺めながら、今や遅しとはやる心を押さえきれない一人のオルガニストがいました。遂に始まった!! オルガニストは茶色のダウンを着込み、毛糸の帽子と手袋の重装備で自転車に跨りました。

 少しでも空の広いところを捜し求め、街を疾走する狼女と化したオルガニスト。
その頭上では、信じられないような天体ショーが繰り広げられていました。数え切れない星が時に色つき、時に音つきで降ってくるのです。狼女は言葉を失っていました。
しし座流星群の極大日、まれに見る大出現の日の出来事でした。…警察に職務質問を受けないでよかった…

狼女、流星に乗るの図
狼女は空を飛ぶ.jpg
by Natsuko SATO

 
 この狼女、最近は変身していません。けれどご近所が寝静まった深夜、パジャマにガウンの出立ちで、ひとり表に出て空を見上げ微笑でいることを、たれかはしるらむや。
 


香取智子 wrote|Date:06.11.20|コメント (2)